淺沼組名古屋支店がZEB Readyを取得
省エネに取り組みながら、自然とつながる心地よい空間を創出する 

淺沼組が取り組む、「人間にも地球にも良い循環を生む」環境配慮型のリニューアル。
2021年9月に竣工したGOOD CYCLE BUILDING 001淺沼組名古屋支店改修プロジェクトは、築30年のビルの躯体活用し、後から加える素材はできるだけ自然素材を用いて改修しました。
淺沼組は、人が暮らす環境から地球環境まで、総合的に環境のことを考えながらリニューアル事業に取り組み、自然の力と人の創造力を掛け合わせた独自技術で、自然物と人工物のより良い循環を生み出すことを目指しています。

淺沼組名古屋支店改修では、省エネルギーの性能評価「ZEB Ready」の認証を取得しました。
今回は、このZEB Ready 認証を取得するための取り組みについてご紹介します。

Speaker

  • 淺沼組 執行役員
    名古屋支店長

    長谷川 清

    名古屋大学建築学部工学科卒業後、淺沼組入社。2017〜21年同社名古屋支店設計部長、2019~21年同社設計統括室長兼務。

    長谷川 清
  • 建築家

    川島 範久

    一級建築士。博士(工学)。川島範久建築設計事務所主宰。明治大学准教授。東京大学大学院博士課程修了。日本建築学会賞(作品)、前田工学賞など。

    川島 範久

ZEB Readyとは

 ZEBとは、Net Zero Energy Building(ネット・ゼロ・エネルギー・ビル)の略称で、「ゼブ」と呼ばれ、建物で消費するエネルギーの収支を0にすることを目指した建物のことです。
建物の中でのエネルギー消費量を、省エネと創エネで削減し、エネルギーの収支を0に近づけることを目指します。
そうは言ってもエネルギー収支を完全にゼロにするには、大幅な省エネと大量の創エネが必要となるため簡単なことではありません。達成状況に応じて段階が分かれ、ZEBの種類が判別されています。

ZEBを実現することは、「光熱費の削減」「快適性・生産性の向上」「不動産価値の向上」「事業継承性の向上」という4つのメリットがあげられます。

  1. 光熱費の削減
    エネルギー消費量を抑えることで、建物の運用に掛かる光熱費を大きく抑えることができます。原油や天然ガスの高騰の状況下で、エネルギー消費量を可能な限り抑えることは、地球環境にも経済的にも大きなメリットをもたらすと考えられます。
  2. 快適性・生産性の向上
    エネルギー性能を高め、自然エネルギーを活用する取り組みのため、自然光や通風利用が心地よい空間を生み出し、生産性や創造性の向上につなげることができます。
  3. 不動産価値の向上
    ZEBを実現することは、CO2など温室効果ガスの大幅な削減にもつながります。昨今、SDGsやESG投資など、企業にとって環境配慮した活動がブランドイメージの向上につながるため、一般的な建築物に比べて不動産価値の向上が期待できます。
  4. 事業継承性の向上
    建物における防災については、耐震性能だけではなく、非常時における建物の機能を維持するエネルギーが必要となります。創エネルギーの設備がない場合も、断熱性能の高い外皮や、エネルギー消費効率の高い設備を整えることで環境性能を安定させ、建物機能を維持するエネルギー需要を抑えることができます。
出典:環境省 ZEB PORTAL

ZEBでは省エネと創エネでエネルギー収支を0に近づけることを目指しますが、創エネには、屋上や敷地内に太陽光発電を設置することが必要となります。
名古屋支店のように8階建で建築面積の小さい場合は、太陽光発電を置く面積が限られ、創エネルギーが25%以上とはなりません。
よって、今回の淺沼組の名古屋支店改修では、省エネで50%以下まで減らす「ZEB Ready」を目指しました。

名古屋支店改修におけるZEB Readyの取り組みについて、名古屋支店の長谷川清は、
「今回は改修という制限がかかる中で、ZEB Readyにすることは、新築よりも難しいという点がありました」と言います。

「新築の場合なら、省エネに取り組むために最初の設計から考えることができます。今回は改修工事のため、既存建物の規模や設備を活かしながら取り組まなければなりません。建物の高さも決まっているため、例えば天井裏の広さも決まってしまっています。省エネのシミュレーションを細かく行いながら、働く人の快適性を追求することも目指しました」

「ZEB Ready」  技術面の取り組み

今回の改修における、ZEB Ready取得に向けた技術面の取り組みについてご紹介します。

空調・換気計画

人が心地よく生活するために湿度や温度管理を行いながら、エネルギーをできるだけ使わずに効率良くするにはどうしたら良いのか考え、設計をすることが大きなポイントだったと言います。

  1. 空調エネルギーの削減→躯体断熱と高性能サッシ・複層ガラス仕様に改修
  2. 機器の性能を上げること→ハイクラスの空調室外機を採用
  3. 空調システムを変えること→ デシカント空調システムを採用

を行い、空調負荷の軽減に取り組みました。

※デシカント空調とは、温度と湿度を個別に制御することでエネルギー効率を良くする技術

断熱施工の様子
南面への庇追加
木製サッシに改修

照明計画

また、照明計画では、タスク・アンビエント照明を採用し、昼間は昼光を利用することにより、照明エネルギーを削減しました。
タスク・アンビエント照明とは「TASK(作業)and Ambient(周囲)Lighting(照明)」の略。従来のオフィスでは、天井に設置された照明で部屋全体を明るくすることが一般的でしたが、タスク・アンビエント照明は、働く人の作業や場所に応じて必要な明るさに調整するという手法です。

名古屋支店では、一人一台、手元で明かりを調整できる照明器具を設置。さらに天井の照明は無線調光システムにより、器具一台ごとに明るさセンサー制御を行い、昼間は昼光を利用することにより照明エネルギーを削減しました。

廊下・トイレはセンサーにより、不要な時には消灯。

ZEBを実現するためには、エネルギーの効率を上げながら、さらに重要なことは、パッシブ技術で、いかに自然のエネルギー(自然の光や風)を建物に活用するかが大きなポイントとなります。

※パッシブ技術とは、「建物内の環境を適切に維持するために必要なエネルギー量(エネルギー需要)を減らすための技術」

出典:環境省 ZEB PORTAL

既存躯体を活かしたパッシブデザイン

今回、淺沼組名古屋支店改修には、長年、サステナブルデザインの研究を行う建築家の川島範久さんをデザインパートナーに迎え、「人にも自然にも良い循環を生む」ためのパッシブデザインが実現されました。
名古屋支店のメインファサード(外観正面)は西向きで、改修前は全面ガラス張りで夏には厳しい日差しが差し込むため、常にブラインドが下されている状態でした。

そこで、今回大きく変更したのは、各階にバルコニーを設けてそこに植栽を施すということ。建物全体が一つの里山になるようにイメージされ、130種類もの植物が植えられました。

ベランダにある植栽を通して、強い日差しを避けながら自然の光を感じることができ、窓を開けられることで風通しがよく、緑を感じることも出来ます。また、北・南・東の窓にも庇をつけることで、雨の日も窓を開けられるように工夫しました。
このようにして建物内には自然採光や自然通風といった、自然のエネルギーを取り入れることができます。

自然と関わりを持ち、建物に愛着を持つ

川島さんに今回の取り組みについてお話を伺いました。

「近年再開発ブームが象徴しているように、大規模オフィスは築浅のものが多く、ストックが充実してきている中で、中小規模オフィスは築浅のストックが少なく、逆に築30年程度のストックが非常に多く存在します。

実は、このような「中規模サイズ」こそ、「環境ポテンシャルは高い」ということを感じています」

出典:ザイマックスレポート「オフィスピラミッド 2020」

「新築でつくらなくても、今ある中規模サイズのストックを適切に改修すれば、自然の光や風を十分に活かすことのできるビルを実現することが可能です。そして、躯体にかかるCO2の排出量を、新築に比べて大幅に削減することが可能です。

また、今回の改修にあたっては、建築が都市の中で与える影響を考えたときに、例えば都会に、里山を育てるように、建築を建てることで都市環境改善にも寄与する建築はつくれないか、と考えました。バルコニーの植栽計画を行うことで、オフィス利用者だけではなく、道ゆく人や周辺地域の人にもその環境をシェアすることができます。
そして、植栽は、鑑賞するというだけではなく、社員たちみずからが管理し、メンテナンスを行える仕組みとしました。
自然の光や風といった自然エネルギーを活用するということを行いながら、自然と人とが関わり合って、建物を大切に、愛着をもってオフィスを使って頂ければと思います」
(川島さん)

8階イベントホール 左側(南面)のスラブを除去し、トップライトを設けて、自然光を取り入れ明るい空間に。
執務エリア。オフィスの中は光と風を感じる空間へ。
バルコニーの植栽は全階層に約130種類の植物が植えられ、社員たちがメンテナンスを行う。

以上のようなパッシブ改修と技術導入の結果、空調・換気・照明の全てで基準一次エネルギー消費量より少なくなり、建物全体としても省エネ基準の半分となり、ZEB Readyを達成することができました。

空調・換気・照明のどれも基準1次エネルギー消費量より小さくなり、建物全体としても省エネ基準の半分以下となりZEB Ready達成。
非住宅建築物のエネルギー消費等のデータベースDECCにおける同条件の建物と比較したところ、改修後の電力消費量の実績値は半分以下と、とても小さなものになっている。

省エネを実現しながら、自然とつながる心地よい空間を創出する取り組みをさらに発展させ、「ZEB Ready」「Neary ZEB」「ZEB」「ZEB Oriented」など、ニーズに合わせた提案を行っていきたいと思います。

TOPICS一覧へ戻る

Contact

お問い合わせはこちら